『わかってる。知ってる』

 

『あんたはそんなことしない』

 

『…でも』

 

『もし、そうだとしても』

 

『あんたのせいじゃない』

 

 

 

 

 

幸せについて

 

 

 

タキ…

(タキ、違う)

 

 

それは違う。

そんなことを望んだんじゃない。そんなモノ望まない。

欲しいのは

 

 

(望んだのは)

 そんな言葉なんかじゃなくて。

 

 

 

つと、暗闇に目を覚ます。

喉に感じる違和感。嫌な渇きに。

木目調の天井から下がったランプが、変に揺れて、キイキイと音を立てる。

――いつもなら気にも留めないようなその音にさえ、苛立ちを感じる。

 

…この、厚かましい、喉の渇きが。

繰り返し繰り返し。

また、いつもの悪夢を連れてくる。

(…また、あの夜を連れてくる)

 

 

小さな溜息。鬱陶しい前髪を掻き揚げると、ぐっしょりと濡れているのがわかる。

何となく、この濡れてしまった手を見つめて、「どうしようか…」とひどく間抜けなことを考える自分が居る。

目線を転じると、同じシーツの上に、気持ちよさそうにアーギが眠っているのが映った。

 

 

 

(タキ…)

 生来にはありえない銀色の小犬を見ながら、その拾い主の少年の名前が浮かぶ。

(…ラズ…、アーギ…)

 それから、他にも自分の大切な人たち。

 

 

(エーヴァ、アティラ、シャニ…子供たちと…それから、村の人たち)

 そして、大切だった人たちの名前。

(………それから)

 

 

(アマーリア)

 

 最愛の人の名前。

 風に揺れる長い金髪と、くるくる変わる表情が目の前に浮かぶように、ありありと、その一挙手一動作を思い出される。

自分が、「幸せになって」と願う以上に幸せにさせてくれた。

…居なくなってしまった人たちだけれども。

だからこそか、思い出すたびに、心臓を優しく締め上げるような、そんな人たちの名前。

 

 

 

そして、今でも自分に「幸せになって」と、囁きかけてくれる人たちがいる。

「幸せになって」と。

(…今も、私が望む以上で)

それ以上の思いで。

 半死半生の人間が望む、それ以上の言葉で。

(返してくれている)

 

 

「タキ」

 闇の中に向けて言葉を放つ。「でもね」と、胸の奥で返る声がする。

(…アナタは優しすぎる)

クラクラする視界の中心に、薄ぼんやりと黒髪の少年の顔が浮かぶ。

(「私を殺せ」と言っておいてなんですけど…)

(――以前に、「助けて」と言っておいて、アレですけれども)

 

 

 

 

 

(私を信じすぎないで)

 あなた自身の幸せと、身を守る方法を知って。

近寄り過ぎないで。いざとなったら、いつでも逃げられるくらいに。

「…だけど、離れていかないで」と。そう望む自分も居るけれども。

 

 

 

 

アナタたちが私に望むくらい私が――

「幸せになって」と、望んでいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※後書き※

『黒の太陽銀の月』、文章だとこんな(?)。

絵が好きです。特にシキミさん。黒髪ん時も良いが、銀髪のちょっとクールで、お間抜け気味な割りにシリアス(どんなやねん)という様子もOKです。

…同盟とかあんのかな。今度、調べてみようか、どうしよう。

しかし、自分は相変わらず「カップリングが書けないな」、というのを思い知るね。

 

BY  dikmmy