二者択一

 

 

Q.さてここで質問。

 あなたならどちらに行く?

浅月:「今日の夏祭り、一緒に行かねー?」

ラザフォード:「今度の日曜、コンサートがあるんだが…」

 

 

 

A.鳴海歩(※フリー)の場合

 a.浅月の方 (このまま下へ)

b.ラザフォードの方 (

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なあ、鳴海弟」

 

いつもの放課後、新聞部部室内。偶然にも先に来ていた歩と二人きりという、このオイシイ状況で――いつに無く真面目な面持ちで口を開く。

目を落としていた、相変わらず図書室から借りたらしい料理の本からちらりと顔を上げて、面倒臭そうな表情で歩が見上げてくる。

明るい茶色の大きな瞳。いつも通り、これといって感情を示さないその瞳が、自分を見つめている。浅月は込み上げてくる衝動を強引に押さえ、何とか笑顔を形作る。

(…落ち着けぇ、俺ー)

 そっと唾を飲んで。頭の中で、「ビイ・クール」だ何だと繰り返す。

 

(まずは冷静に、だ)

――この相手に、腹に一物があるなどとバレてはなら無いことは百も承知。何より、自分は嘘を吐くことにかけては百戦錬磨なのである。気付かれないように、笑みをさらに強める。

「…何だ?」

 訝しげな様子で、歩が首を傾げるのが見える。

 それに対し、自分も同じように首を傾げてみる。どう考えても、この仕草をした自分が、彼のように可愛く見えるとは到底思えないが――

 

「今日の夏祭り、一緒に行かねー?」

 そう問うと、彼はやはり不可思議なものを見たような表情をした。それから、「…夏祭り?」という疑問系の声が聞こえる。その言葉に、小さく溜息を吐く。

 何というか――あまりにも予想通りの反応に、呆れる思いで浅月は口を開いた。

「…朱鞠駅の近くで、花火大会があるの知らねえのか?」

「覚えが無いな」

 あっさりと返事。取り付く島も無いとは、このことかもしれない。思わず漏れる苦笑。『らしい』といえば、この上なくらしい反応だ。

「……で、行かないか?一緒に」

 手を組み替えて、再び切り出してみる。が、返ってくるのは感情の読めない一言。

「何で」

 その物言いに、逆にこちらの方が変に慌てる。

「……いや、何でって言われても…行きたくならねー?」

「ならない」

「………」

 

 

 あっさりし過ぎの彼の台詞に、思わず頭を抱えたくなる。当の歩といえば、浅月が無言になったのを良いことに、再び手元の本に目線を落としている。

 そんな彼を、恨めしげに見つめて、心中でそっと戦略を練る。

「…叫んできて良いか?」

「あ?」

 いわゆる目的語とかいう奴を抜かして訪ねると、当然ながらの生返事。それに悪戯を思いついた顔でニヤリと笑う。

「『俺は一年何組の鳴海歩が好きだー』…とか。某番組のノリで屋上から」

「……ヤメロ」

 低く呟く声が聞こえる。

 

 「例え冗談でも気味悪いだろ」――横線の入った歩が、顔を上げて思い切り嫌そうな声で答えるのが見えた。

疑心の目で見つめてくる彼に、取り合えず否定の言葉はくれてやらず、「――…なら、どうする?」と、薄笑いを浮かべて先を促す。対決する時みたいに、歩の瞳を覗き込む。

「………」

 無言のまま、歩が組んだ足の上の本を閉じたのが見えた。眉を寄せて、茶色の瞳がじっと見つめてくる。答える気が無いのか、あるいは何か断るための策でも考えているのか――

 その思考に横槍を入れるタイミングで、パイプ椅子を引いてゆっくりと立ち上がる。

かといって、歩の傍に近寄るのではない。そのまま足を部室の入り口の方へ向ける。横目で様子を盗み見ると、意図が見えないらしい歩が、不思議そうな顔をしているのが見えた。

「…叫んでくるか」

 背中越しにぽつりと呟く。

 

「ヤメロ」

 途端に後ろから制止が掛かかった。制服の上着の裾を引っ張られて、思わずつんのめるような形になる。

 ポケットに両手を突っ込んだ格好で振り向いた先には、嫌そうに盛大な溜息を吐いている彼の姿。「なら、どうするんだっけ?」

 と、意地悪い笑顔でもう一度繰り返してやる。彼の瞳を見返す。――実際、この瞬間が堪らなく楽しいと思う。

「…行ったら、言わないんだろうな」

 尋ねられて、静かにズレた眼鏡の位置を、人差し指で補整する。

「……ああ」

俯いて、ニヤリと笑う。「そうじゃねーと、フェアじゃねーだろう?」

 

面倒臭そうに髪を掻き揚げるのを眺めて、相手が次にどう動くかを予測する。どう逃げる。どう戦う?――その様は、まるで狩り(ハント)だ。

 

 

 期待半分、それ以外半分。彼が自分の上を行くというなら、それもまた良い。また逆に、引っかかってくれるのも可愛げがあるように思う。――この浮遊感が何とも言えず病みつきになるような、そんな妙にふわふわした気分だ。

 いつでも難無く屋上に行ける位置に立ったまま、壁に背を預ける。目を細めて、斜め上からじっくりと彼を観察する。

その様子に、歩が相変わらず盛大な溜息を吐いて――

 

「……わかった」

 

 その言葉に、少しだけ目を見開く。観念したように彼が片手を上げるのが見える。

(…『わかった』って) 

――口元が笑うのはしょうがないとしか言いようが無い。頭の中で、彼の言葉を反芻する。思わず壁から体を離して、もう一度確認する。

「…行くってことだよな!?俺と一緒に!」

 勢い込んで言うと、

「…ああ」

歩は眉間に皺を刻みながら、苛立たしげに頭を掻いているのが見えた。

「…行ったら本当に言わないんだろうな」

机の上に本を戻し、嫌そうに呟く声が聞こえる。しかし、そんな動作の中に、彼が小さいながらもはっきりと頷いたのを見つけて――

(――うしっ!)

 

 見えない位置で、小さくガッツポーズ。

 

「ただし、すぐに帰るからな」

 そう言う歩に、「仕方無えな」と笑いかけながら自分の鞄を右手に、傍らに置いてある彼の鞄を左手に取り上げる。

「――あ、おい!」

 それを見た歩が、慌てて立ち上がるのが見える。

 いつも無表情の彼が、鞄を引ったくられたみたいな顔をして近付いてくる。その姿が、何だか年相応にとても可愛らしいように見える自分は、ちょっとヤバイかもしれない。

「ちょっと静かにな…」

 

 歩に制止を呼びかけ、人差し指を自分の口元に当てる。それを見て、彼が一旦動きを止めるのが見えた。浮かびかけた笑顔をしまいこんで、ドアの方に振り返る。

「………」

ピタリとドアの側面に耳を寄せて、聞き耳を立てる。ひんやりとした扉が、意外に心地良い。

(……右の方から足音が一つ、二つ…)

 歩き方のタイミング、呼吸の仕方、話し声。その一つ一つに集中し、気配を鋭敏にする。記憶を探ってみる。――伊達に容量の多い頭なわけではない。こういう時に活用しなくて、何にするというのか。

しかし、そのどれもが、聞き覚えのある音の立て方ではないように思う。

 

 

「…何やってんだ?」

 不思議そうな顔をした歩が、心持ち小声で問いかけてくるのが聞こえる。

 その声を今のところ無視して、二つの鞄を一つ手に肩にかけるように持ち替える。

「………」

無言で背中に「来い来い」と合図。先立って薄くドアを開ける。その隙間から、五感を緊張させて、あるいは使えるもんなら六感まで使って――そっと廊下を窺う。

少しずつ隙間を増やしていく。

 

(…どうだ?)

 

 四十五度程開けて、顔を覗かせて辺りを見回すが、『あいつ等』の姿も気配も無いことに、取り合えずほっとする。

その先には、知らない顔の女生徒が二人、雑談しながら廊下を渡っているきりだ。

「――行くぞ!」

 振り向きざま、歩の腕を強奪し、素早くドアを抜け、駆け出す。小声で叫ぶ。「走れっ!」

「――あ、おいっ!」

 後ろから、つんのめって、走りにくそうな歩の声。

 腕を絡ませながら廊下を爆走する二人の男子生徒に、周りを歩いている普通の生徒が目を丸くしているのが見える。

 それにも気分良く愛想を振りまいて、それから背後に振り向く。後ろからは、いつもの無表情ではなく、呆然とした――言い換えれば間の抜けたとも言えなくも無い様子の歩の姿。

そんな彼に思わず苦笑する。

 「おーし、じゃあ…」

  浅月は、声を上げて笑った。

 

 

 

 

 

 a.「じゃあ、一旦家に」

 b.「さっさと会場へ」

 

 

 

 

 

 

 

※途中書き※

 …こういうゲームっぽいのを書いてみたくてですね。

 RPG系ってーのかな?サイコロ振ってどっち――みたいな。こんな感じの、小説で出てるよね。

 自分は、昔そういうのが好きでさ。

 少々いつも以上に話が長くなるので、その辺が面倒といや面倒なんですけど…。

  (ちなみに、エンディングは3つ。)

 

2004-10-?