最後の言葉に

 

 

 

 

 

 

 

――無くしたものがある。自分には。大切で、だけども捨ててしまった、もうこの手には戻らない思いがある。

それはきっと、黒鋼や小狼にもいえることなのかも知れないけれども。

(…でも、ちょっと違うんだ)

俯いて、そっと自嘲気味に頭を振る。

 

 

少なくとも、自分とは違って、彼らには手立てがある。

条件に関しては簡単とは言いがたいけれど、それでも彼らの旅には必ず終わりが来る。それは、終わらせるための旅。

何枚の記憶の羽が散ったかは知れない。けれど、数にはきっと限りがあって。

サクラには彼の記憶が戻らなくても、それで、小狼が大切なものを大切に出来なくなったわけではない。サクラが、今の小狼を大切にしないわけではない。

未来に渡って、希望が何も無いわけではないのだ。

黒鋼だって、この旅を続ける内、いつかは元居た国に辿り着く。

 

あるいは、再び次元の魔女に会い、刀を取り返すために、多少手間はかかるだろうが、もう一巡りぐらいなら付き合ってくれたりするかも知れないけれど。

彼らにはきっと、その内に旅の終わりが来て。

そうして、自分だけが最後に残される。自分だけが終わらずに。

永遠に逃げ続ける旅人として。

 

 

 

(…しょうがないね)

 

 声を出さないように、そっと口だけを動かす。

 戻る場所はもう無い。国も人も。大切な人たち、大切な場所。それらを捨ててきたのは、自分なのだから。

 戻る場所も無く、行くべきところも無い。

 一つ処に留まらず、まるで根無し草のように。一生――死ぬまで。

(諦めない限りは)

 

 

 だから、きっといつか。

去って行く人たちに、一人その背に手を振る日が来る。

――その時、自分は一体どんな表情をするだろうか。

彼らは、どうだろうか。

 

 

 

 

きっといつか言う言葉を、心の中にそっと刻む。

きっといつか。

 

 

 

 

 

さようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※後書き※

『スパイラル』でも『十字界』でも似たようなの書いといて…。て思うかも知れないですが。

書きやすいんだよね。

BY  dikmmy

 

 

 

 

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