「希望があることを誰よりも信じてみせます」
そう言ったときの瞳を、誰よりも強いと思った。
その瞳に恋をする
初めて見たときは、ひどくか弱いような、守ってあげなくちゃいけないと思わせるくらいに、とてもちっぽけで、小さな存在のように感じた。
「はう〜」
とか言って、
(…ほら、すぐ泣く)
ぽてぽて――という擬音がつきそうな、危なっかしい走りをしていたと思ったら、予想通りに目の前で転んだ。
「大丈夫か?」
思わず手を貸す。
「はわ〜っ」
…何だか良くわからない感嘆符だ。
手を掴んで、引っ張り上げる。背が小さいせいなのか何なのか、異様な軽さに少し驚く。
「う〜、ごめんなさい、弟さ――はわっ!」
謝りかけて、それから、抱えるようにしていた近くのコンビニで買ったパンが、見事に潰れているのを発見して、また泣きそうになっている。
…普段は、本当にこんな感じの子なのだ。
たまに、二重人格なんじゃないかと思う。
(…あっちの方の性格が、強烈過ぎるんだろうな)
と、その泣きそうになっている顔をちらりと見ながら思う。
この雰囲気からは想像の仕様がないが、時々、本当に性格ががらりと変わる。雰囲気も、そして何より、その瞳の色が――鮮やかな意思に彩られて。
『誰よりも信じてみせます』
と、そう自分の前で言い切ったその顔は、まるで別人のようで。
自信のない自分には、絶対にできない彼女の表情を見て。
――綺麗だな、と、絶対に本人の前では言ったりはしないけれど――そう、思う自分がいる。
(…まあ、今は、綺麗っていうより)
ふと、考えかけたところに
「弟さん?」
不意打ちで、下から覗き込むようにして理緒が、先ほどから黙り込んでいたらしい歩の顔を見上げた。
「――うわっ!」
思わず、のけぞりながら一歩後ろに下がる。とっさに顔を片手で覆って。
――この時ほど、自分が無表情で良かったと、顔に出なくて良かったと思ったことはない。そうでなければ、今頃、自分の顔は茹蛸のように真っ赤だったかもしれないのだから。
「弟さん?…どうしたんですか?」
理緒が、再び首を傾げながら尋ねてくる。
その様子は、『計算か?』と疑わずにはいられないほど可愛らしく見えた。
片手で顔の表情を読み取られないように、口元を覆ったまま、もう一度、理緒の顔を見る。
(…やべ。…思わず口が笑う)
内心、そんなことを思いながら――不思議そうにこちらを見ている理緒の手元に視線を移す。そこには、先ほどから潰れかけのパン。
「…あー、えっと…」
無意味に少し言いよどんで。
掴んだ手を離して、自分は手をポケットに突っ込む。考える時のいつもの癖で、軽く頭を掻いてから、それから、再び視線を理緒に戻して。
「あんた、いつもパン持って転んでるよな?」
そんなことを真顔に取り繕った顔で尋ねる。ちなみに、これは、この先に続けるためのジャブ。
「はう〜、そうですかねえ?」
ぽてぽてと、再び並んで歩き出す。
それを確かめてから、照れ隠しに今度はあまり顔を見ないで。
「…今度、潰れて無いパン持ってきてやるよ」
「はわ?」
…良くわからない感嘆符が再び。
「今度、昼飯に何かパンと軽いオカズ作って来てやる」
また顔が笑いそうになって、口元を押さえながら言ってから、しばらくして、ちらと顔を伺うように、反応の無い隣に視線を移す。
「……///」
そこには、顔を赤らめた理緒の、極上ふわふわの笑顔があった。
歩君、実は理緒とくっつくんじゃないかと踏んでます。
2004-7-11
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