また朝が来る

 

 

 

 

 

鉄格子の向こうで空を見上げる。

寝付けない夜に、そっと外に目を凝らし朝を待つ。

闇に溶けるように

闇が溶けるように

朝日が昇るのを、繰り返し繰り返し。

 

 

――あの日から、一体幾日経っただろうか。仲間を捨て、弟を半死半生にしたあの日。覚えているのは、目に痛いほどの晴天。

寝そべったまま、ゆっくりと視界を移動させる。頭が上手く回らないような感じ。思考を巡らしても日数はひどく曖昧で、昨日のことさえ不確かで。

見えるのは闇と、銀色の月。まだ薄暗い天井の白。ふつふつと湧き上がる衝動に、気付かない振りで目を瞑る。カーニバルは終わったというのに、まだ、胸の奥の火花が終わらない。

チカチカと――

いつまでも、この胸に寄せては返す思いがある。

 

(…どうしようか)

 誰とも無く、尋ねてみたりする。無作為に、オレンジの髪を弄ぶ。

どうにも寝付けない。ごろごろと寝返り。

 

気が立っているのかも知れなかった。それは、久々に弟と再会したせいかも知れないし、別の理由があるのかも知れない。または、特に理由など無いのかも知れなかった。

それ程今の自分は、ひどく、曖昧な状態で――

暗闇に目を凝らす。疑心暗鬼というのか、案ずるより生むが易しというのか(それは、結果の話だ)、丁度良い言葉は思い浮かばないけれど。

 

 

力を抜かなければ、窒息しそうで。

 力を抜けば、一気に潰れそうで。

 

(…カノン、案外ピンチ…?)

 以前、似たような台詞を誰かに言ったような気がした。自嘲のために薄く笑う。笑えるからといって、それで全て平気とは思わないけれども。

 笑えても、それは自分にとって、小さな防御反応に過ぎないけれども。

 

 

ぼんやりと天井を見上げ、頭のスクリーンに彼の面影を浮かべる。茶色い髪、茶色の瞳。「神」に似て、そして非なる者。優しい瞳の、弱っちい背中の、まだほんの少年の姿を。

胸を焼く絶望と、微かに灯る小さな希望がある。

(本当に強いのは…)

 そっと、唇だけを動かして。

 目の奥にちらつくブルーアイズに微笑みかける。

(…それでも、立ち上がる人がいるということ)

 

 絶望に出会い――それでも。最後には必ず立ち上がる、優しい人がいること。

 こんな自分を勇気付け、「大丈夫だ」と言ってくれる親友がいること。

 その二つの事実が。

それだけが、今の自分を支えてくれている。

 

 

 窓の外に目を向ける。目に映る、微かな朝焼け。

ディープブルー。深い藍。人を押し潰すその宵闇から、静かに厳かな薄い赤。微かな紫。薄っすらと日の光。

あと数時間もすれば、完全に太陽が昇るだろうか。薄暗がりに注ぐ眩しさに、ほんの少し目を細める。

「……ああ」

小さく口元から漏れた声は、意味の無い響きだ。

 

 

 

 

「…また、朝が来る」

 

 

 

 

 

 

 

  2004-10-6

※ブラウザのバックでお戻り下さい。