神の目の大きなゴミ
「歩〜v兄ちゃんが帰ってきたぞーっ!!」
騒ぎの元凶は、突然やって来た。まさに嵐のように。
場所は、例によって例のごとく新聞部部室。いつものメンバーにプラスして、カノンと何故か学園内に不法侵入したラザフォードが加わり、ひよのが持ってきた『新しい紅茶』を淹れて、ティータイムと洒落込もうとしていた時分の放課後。
ガラリ――と、幾分派手に部室の扉を開く音と共に、甘い匂いの漂う室内に彼は入ってきた。
そして、目的の人物を見つけて叫んだのが、先の言葉である。
ちなみに、動作として、満面の笑顔で両腕を大きく広げている。
「――っ!」
「ええっ!?」
「――なっ、清隆!?何でここに!」
「兄貴!?」
「鳴海さんのお兄さん!」
「お前!」
「(無言)!」
それを見て、上から順に、カノン、理緒、浅月、歩、ひよの、良子、アイズが叫ぶ。
しかし、そんなことは平気の平助。相変わらず満面の笑顔で、つかつかと歩に近寄ると、思いっきり抱きつこうとして――
すぱこーん
後ろの方から、思い切り良くスリッパが飛んで来て、後頭部を直撃。それとほぼ同時に、丁度歩の横にいたアイズが、首根っこを引っ張るようにして、魔の手から歩を救出する。
…この辺りは、兄弟ならではのコンビネーション技だといえるだろう。
当の清隆は、歩を横から掻っ攫ったアイズを睨みつけてから、
「……痛いじゃないか」
頭をわざとらしく痛そうに抱えながら振り向いた。その先には、カノンがにこやかに、スリッパを放り投げた姿勢のままで笑っている。
顔は笑っているが、目は「嘘つきやがれ」という感じで、笑っていなかった。
「…どこから湧いてきた、キヨタカ」
「湧くとは失礼な。人間、湧きもしないし、自然発生もしないぞぉ」
「……何しに来たんだ」
歩が、アイズに襟首をつままれた状態で尋ねる。
その目には、「きっと、ろくなものではないだろう」との、長年の経験から来る不信感がありありと浮かんでいる。
そんな歩に、あくまでも平静を装いつつ、清隆は言い放った。
「最愛の弟と、久しぶりにスキンシップを取りに」
そう言ったかと思うと、スーツの胸元から数枚の写真を取り出すと、バンっ!と机の上に叩き付けた。
「何だ何だ」というように、全員がその周りを囲む。
「どれどれ〜?」
「一体、何なんだい?」
「?」
「…何の写真ですかね」
額を寄せ合って、皆でそれを覗き込む。
背景から察するに、時間も、場所もそれぞれ違っているのが見て取れる。その写真には、共通して歩が写っていた。
――ただし、様々な邪魔付きで。
例えば、一番上の写真には、歩を狙ったカメラの前方をわざとらしく横切るカノンに、その後ろで、歩の特徴のある髪型だけが写って見える。
さらに次の写真は、思いっきり浅月が歩に抱きついている写真で、
「あーっ、こうすけくんてば、ずるーい!」
「…浅月」
「香介、何してんのさ!」
などなど、ひと悶着起きかけるが、次の写真が、理緒と歩が仲良さ気に傘を差して歩いているものだったりして、
「…理緒」
「あーっ、理緒さん、抜け駆けですか?!」
「理緒!お前、人のこと言えねえじゃねえか」
「はう〜っ、この写真くださいv清隆様」
とかとか…
ちなみに、良子の「誰が撮ったんだ、この写真」という声は、初めから無視されていた。
「…見ただろう」
渋そうな顔をして清隆が呟く。
いつの間にか、勝手に部室の紅茶を淹れ直して飲んでいる。
「お前達が歩にコレだけちょっかいをかけているというのに、私は写真一つ満足に撮れないなんて、不公平だろう?」
優雅に紅茶を啜ると、ゆっくりと辺りを見回す。あるいは、周りに同意を求めているのかも知れない。暫くすると彼は、ぴたりとある一点で目線を止めた。目線の先は、正面向いて嫌そうな顔をしている少年が約一名。
しかしながら、そんなもの清隆様が気にするはずが無く。
「そんなわけで――」
言いながら、変にガッツポーズ。朗々と、思わず魅入る程の、妙に力強い叫び声で断言する。恋敵が誰だろうと関係が無い――
目の前のどんな塵芥であろうと、蹴散らす強引さで。
「兄ちゃんと今から、プリクラを撮りに行こうじゃないか!弟よ!」
※ちなみにオマケ1(漫画:ギャグ)
オマケ2(漫画・真面目)
オマケ3(漫画:ウォッチャー系裏話)
タイトルはアレですよ。9巻内のサブタイトル・「神の目の小さな塵」とかいうのを文字ってみました。
2004-9-25
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