アイツばっかり体を張って。

どうして俺がこんな心配しなくちゃいけないのかとか、無性に腹が立ったりするけど。

それでも、

(アイツが死んだらどうしよう)

なんて、俺はひどく不吉なことを考えていたりする。

 

 

 

 

 

 

『HOLIC』

 

 

 

 

 

 

 

 

どうにもウチの家族は短命な人が多くて、俺の両親もその例に漏れず、すでに他界していたりするのだけれども。

そのことが――まるで、俺が全部いけないみたいで。

俺だけが生き残ったのは、何か、とても後ろめたい心地すらする。

 

(子を守るために死んだ、なんて)

 

確かに聞こえは良いかも知れないけれど。死なれた方としては、堪ったもんじゃない。相手が、大事なら大事なほど。それこそ逆に、自分が死んだ方がましだと思いさえするくらいに。

今まで、小さい頃からずっとアヤカシに付き纏われるように育って、それはもう、そういう家系のせいだと侑子さんから聞かされはしたけれども。

――それでも、なんて。

いつも心の奥に引っかかっているような気がして、俺はいつもそのことに目を瞑る。

気付かない振りで。心臓の鼓動が落ち着くのをじっと待つ。

 

(…もしかして、俺が原因だったりしたんじゃないの?)

 

 

なんて。

それこそ今、目の前で、百目鬼が俺のせいで怪我をするみたいに。

俺のために彼が、体を張って血を流してるみたいに。

後ろ暗い感覚が、そっと首をもたげる。

 

 

 

 

 

愛されて育ちはしたけれど。

 

 

果たして、それを両親に全て返せるほど、自分が彼らに何か出来たとは思わない。

それは、これから自分が全うに生きることで、どこかにいる、誰かに、あるいは両親の生まれ変わりにでも――返して行く予定ではあるけれど。

 

(…俺、疫病神じゃなかった?)

 

深く息を吸う。

(…俺がいるせいで、あなたたちを困らせたりしなかった?)

先程と同様の拍数をかけて息を吐く。

心臓の辺りで、拳を作り、そっとその手に力を込める。それは、もう手の届かない人たちに、静かに祈りを捧げるように。

 

(生きていて欲しかったのに)

 

――いつも不安で。

いつも苦しくて。

いつも。

 

 

(あなたたちを思い出すよ)

 

「…オイ」

聞こえた声に、そっと顔を上げると、自分を見返す黒い瞳と目が合った。

手の中は切り傷で血だらけの癖に、相変わらずの鉄面皮で無表情。それから、抑揚のこもらないけれど、それでもしっかりした音で俺の名を呼ぶ。

「平気か」

そう言って、百目鬼がジロリと俺の顔を覗き込む。

 

俺としては、傷はあまり深くは無いようだが、その手からどくどくと溢れる血を見つめながら、今はもう、心配、というより。

(…あ、何かムカムカしてきた)

まるで、この顔を見た時の習性のように。胃の奥がキリキリした。

 

これは、侑子さんによると、俺と百目鬼を仲良くさせないために、アヤカシが何かちょっかいをかけてるって話だけれど。

何となく、その勢いに乗せて叫ぶ。ぎっと目を怒らせて。きっと、彼にはいつもの怒鳴り声に聞こえるに違いないけれど。

勘の良すぎる彼に、気付かれないように。

出来るだけ、俺もいつも通りに。

 

 

「――お前、また怪我したんかよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※後書き※

四月一日の一人称書き。

…感謝はしているだろうとは思います、四月一日君も。百目鬼に。無愛想にしてても、結局は助けてくれてること。(…それにしても、背景と前半部が合わねえ…。)

題名は、思いつかなかったのでそのまんま。良い題名が浮かんだら、お知らせください。自分もソレ気に入ったら、そっちに変えますから。

※文章追加・122

BY dikmmy