普段は何時だって傍若無人。我が侭狼藉何のその。
ジャイアニズム的ゴーイングマイウェイで、縦にあるものを横にもしないグーたら。
見た目が綺麗なだけに、がくんと来る。
棘がある薔薇?じゃないな。根っこに毒がある万寿紗華、みたいな。
で、何かあるとすぐ宴会。
ここ最近は、ちょっと前頃から桜が咲いてて、天気が良い。
満開も良いけど、八分咲き辺りが一番だ何て人もいて、今は丁度その盛り。
よーし、じゃあ今日は天気も良いし、外で花見がてら宴会するわよー何て侑子さんの思いつき一つで用意をさせられるのは何時ものことだ。
つーか今日は飲兵衛が一人増えてるし。何で飲めんだよ、百目鬼の癖に。
思わず愚痴って、非難がましい目を向けるその先にはぐんぐん減っていく熱燗の空き。相変わらずひでースピード。
酒豪なのは別にもう諦めてるから良いけど、何度言ったってツマミと一緒に食べようとしない典型的ガバ酒飲みで、そのうち絶対胃を壊すと思う。
だから、せっかく揚げたそのチーズのツマミも一緒に食べなさいってば。
アーはいはい、黒いのはソレが好きなのね、わかったってば。お前もだよ。
絶対壊すから、二人揃ってそのうち。ぐちぐち。
そんな言い合いはもう日常茶飯事で。それが日常って、どうだろうと思う。
だってソレ、何かもうキッチンドランカーみたいじゃん。
駄目な大人の見本?みたいな。
いや、駄目って言っちゃいけないのかもだけど。
その人なりに、何かあんのかも知んないし。夫婦間の摩擦とか。
いや、わかんないけど。
…あれ?コレって遠まわしに侑子さんたち弁護してる?
そんな風に気付いて、ぼんやりと辺りを見ながら一人首を傾げてみる。ああ、それにしても向日葵ちゃん可愛いな。
もしかして、と思うけども、そこは持ち前の諦めの速さがやってきて終止符を打った。
(…まあいいや)
――それから、ちょっとしたサプライズがあって。
鳴るファンファーレ(の代わりにクラッカー)。
お誕生日おめでとうの言葉と、貰ったのは、向日葵ちゃんからは可愛らしいデザインのエプロン。
百目鬼からは割烹着(怒)。
黒モコナと管狐からは、降るようなキスの嵐。
そして、侑子さんからは。
後から思えば、アレはただのちょっとした八つ当たりって言うか、何時もの愚痴りの延長みたいなモンで。
「侑子さんは、『祝ってあげる』ですか!?」
そう、言ってしまってから。
もう口に出してしまってから、しまったと気付いた。
後悔した。
「そうね」と笑う、あの人の悲しそうな顔を見て。
確かに普段のあの人は、他人(特に俺)の迷惑顧みず我が侭放題し放題で。
人のケーキ食うし、どんだけ言っても好き嫌いはやめないし、酒ばっかガバガバいってツマミ食わないし、人使いは荒いし、そういう自分は言い捨てで、言動たまに分けわかんない人だけど。
だけど。
あの人が、何にも傷つかない超人なんかなわけなかったのに。
* * *
やること全てに魔力が籠もる人なんだろうと思う。
その動作1つ。
目線一つに。
誰かに何かを上げたくてもあげられなくて。
上げてしまえば相手には対価を。
重荷を、返済の義務を、与えるしか。
求めるしか道がなくて。
さみしい、人なんだと思う。
きっと。
多分。
多分言ったら、伝えたら侑子さんは相変わらず笑うだろうけど。
ソレしかもうすることが無くて。
自分じゃあどうにも出来なくて。
きっと、彼女は笑うだろうけど。
何でもないフリであの人は笑うだろうけど。
似ているのかもしれないと。何となくそう思う。
もしかすると俺と、それから向日葵ちゃんと。
同じ人、なのかもしれないと。
思う。
(例えば今の俺みたいに)
(例えば、今の向日葵ちゃん(あのこ)みたいに)
妖怪に、狙われるしかない俺と。
他人に、不幸を与えることしか出来ないと言う向日葵ちゃんと。
同じ、なのかもしれない。
本当は。
(一人では叶わない、強い願いがあって)
(タイトル)
■‘また、叶わない夢‘ではなくて、‘(断定的に)叶わない‘のでもなくて、‘まだ叶わない‘のがミソ。
12巻。
2007/10/18