※未来。イタリア行きを決めたツナと、残ることを決めたハル
(ツナ+ハル)
「…ハルは、知ってます」
ぽつりと、呟くみたいな言葉。
顔は下を向いて。
「ハルは」
影になって表情は見えない。
いつも笑顔の彼女には珍しく、微かな声で。
「ハルは、ツナさんが優しい、ってちゃんと」
握りこんだ手。
「そんなこと知ってます」
声の終わりが震えたように思えて、気付かれぬように薄く眉を顰める。
相変わらず細い体躯には、いつの間にかしっかりとなだらかな起伏がつき、艶やかな髪は以前と比べ少しだけ伸びて。
女らしくなった。
――すとん、と言葉が胸に降りてくる。
それこそ、誰もが振り向くくらいには。
(…きっと俺は今、物凄く情けない顔してる、と思う)
我慢して上げられたその顔に、眉尻を八の字にして。
溜息も出ない程しっかりと口を結ぶ。
見詰めてくる、悲しそうな目を逸らせなくて。
(優しい、なんて)
そんなことはないのに、と。強く、思う。
優しくなんか無い。
優しさなんかじゃない。
俺はいつだって臆病で。
――だって俺は。
俺は、愛されているのを知っていて。
君が本気なのをわかってて。
優しくない、言葉をかけた。
冷たい、拒絶。
君を置いていくと。
* * *
「…ハルは、ツナさんは置いてく人だって、知ってます」
瞳を上げて、柔らかな琥珀を見詰める。
幾分か鋭くなったその気配は、柔らかな物腰に包まれていて。
彼の特徴の一つでもあった奔放に跳ねていた髪は、襟足や前髪を少し伸ばすことで落ちついていた。
今はもう、昔より大分背も伸びて、からかうように面白がって比べあったのがまるで嘘のようで。
――格好良くなった。
憧憬を込めて、そう思う。
昔よりも。
(昔のツナさんもプリティーで十二分に格好良かったですけど)
それでも、その瞳だけは変わらずに。
微かに、目を細める。彼が息を詰めたのがわかった。
泣いている人が嫌いで。
(……ねえ、ツナさん)
本当は誰よりも、暴力が嫌いで。
(……ねえ、ツナさん)
笑ってる、ハルが好きでしょう?
はにかんだみたいに、口元だけ不恰好に歪ませて彼を見る。
目が、乾いたみたいに痛かった。
頭が、風邪をひいた時みたいに真っ白で。
ねえ、そうでしょう?ツナさん。
心の中だけで問いかける。
笑うから。コレが済んだら、ちゃんと笑える私に戻るから。
胸の前で握る手が震えて、さみしい予感に、心臓だけがドクドクとうるさいけれど。
目線だけは、彼から逸らさずに。
だから、ねえ。
お別れくらいちゃんと言わせて。
■感覚的に書いたから、多分わかりづらい。